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近年、社会福祉法人を取り巻く環境は厳しさを増しています。少子高齢化や人口減少、そして新型コロナウイルスの影響により、多くの法人が経営の危機に直面しています。本稿では、ある社会福祉法人の事例を通じて、人材流出と経営悪化の関係性、そしてその解決策について考察します。
社会福祉法人の窮状:デイサービスの稼働率低下
先日、ある社会福祉法人の採用担当者から残念な話を聞きました。複数のデイサービス施設の稼働率が50%代まで落ち込んでいるというのです。これは非常に深刻な状況です。一般的に、デイサービスの採算ラインは70~80%と言われており、50%台では赤字は避けられません。
この法人では、決算が赤字になる可能性も出てきています。社会福祉法人は非営利組織ですが、持続可能な運営のためには一定の利益確保が不可欠です。赤字が続けば、サービスの質の低下や、最悪の場合は事業の継続が困難になる可能性もあります。
人材の質と量:相談員不足の深刻さ
稼働率低下の背景には、人材の問題があります。この法人では、相談員の質が低下し、必要な人材が確保できていないという状況に陥っています。
相談員は利用者と施設をつなぐ重要な役割を担っています。利用者のニーズを適切に把握し、サービス内容を説明し、信頼関係を築くことで、施設の利用を促進する役割があります。相談員の質が低下すると、新規利用者の獲得が難しくなり、既存の利用者の満足度も低下してしまいます。
また、人材不足は残された職員の負担増加につながり、さらなる人材流出を招く悪循環に陥る危険性があります。
根本原因:優秀な管理職の流出
では、なぜこのような状況に陥ったのでしょうか。この法人の場合、根本的な原因は優秀な管理職が次々と退職してしまったことにあります。
管理職は組織の要です。彼らは現場のスタッフを適切に指導・育成し、組織全体の方向性を示す重要な役割を担っています。優秀な管理職が去ることで、以下のような負の連鎖が生じます。
1. リーダーシップの欠如
2. 人材育成システムの崩壊
3. モチベーションの低下
4. サービスの質の低下
5. 利用者満足度の低下
6. 稼働率の低下
7. 経営状況の悪化
このサイクルは、さらなる人材流出を招き、組織の存続そのものを脅かす可能性があります。
優秀な人材に見限られる組織の悲しさ
優秀な管理職に次々と退職されるということは、その組織に何らかの深刻な問題があることを示しています。多くの場合、以下のような要因が考えられます:
1. ビジョンの欠如:組織の方向性が不明確で、将来の展望が見えない
2. 評価・報酬制度の不備:努力や成果が適切に評価・報酬に反映されない
3. 意思決定プロセスの不透明さ:重要な決定が一部の人間によって独断的に行われる
4. コミュニケーション不足:経営層と現場の間で情報共有や対話が不足している
5. 成長機会の欠如:スキルアップやキャリアアップの機会が限られている
優秀な人材ほど、このような問題に敏感です。彼らは自身の能力を最大限に発揮できる環境を求めており、それが得られないと判断した場合、新たな機会を求めて組織を去ってしまいます。
解決策:トップの器と仕組みづくり
この状況を打開するためには、まず組織のトップの意識改革が不可欠です。トップの「器」、つまり経営者としての資質や能力が重要になります。具体的には以下のような能力が求められます:
1. ビジョン構築力:明確な将来像を描き、それを組織全体に浸透させる能力
2. リーダーシップ:組織を正しい方向に導き、メンバーのモチベーションを高める能力
3. コミュニケーション力:現場の声に耳を傾け、適切なフィードバックを行う能力
4. 意思決定力:状況を的確に分析し、迅速かつ適切な判断を下す能力
5. 変革力:時代の変化に応じて組織を柔軟に変革させる能力
しかし、必ずしもすべての経営者がこれらの能力を兼ね備えているわけではありません。その場合は、「仕組み」を構築することで補完することが可能です。
例えば:
1. 人材育成システムの確立:計画的な研修プログラムや、メンターシップ制度の導入
2. 評価・報酬制度の整備:公平で透明性の高い評価システムと、それに連動した報酬制度の構築
3. 意思決定プロセスの明確化:重要な決定に関する協議の場を設け、プロセスを可視化する
4. コミュニケーション促進策:定期的な全体会議や、部門間の情報共有会議の実施
5. キャリアパスの明確化:組織内でのキャリアアップの道筋を示し、成長の機会を提供する
これらの仕組みを適切に機能させることで、個人の能力に過度に依存しない、強靭な組織体制を構築することができます。
まとめ:持続可能な社会福祉法人経営に向けて
社会福祉法人の使命は、地域社会に必要不可欠なサービスを持続的に提供することです。そのためには、安定した経営基盤と、質の高い人材の確保・育成が不可欠です。
優秀な人材の流出は、単なる一時的な問題ではありません。それは組織の根本的な課題を映し出す重要なシグナルです。この問題を直視し、適切な対策を講じることが、組織の未来を左右します。
トップの意識改革と適切な仕組みづくり。この二つを両輪として、持続可能な経営体制を構築することが、今、社会福祉法人に求められています。
経営課題でお悩みの方は、ぜひ専門家に相談することをおすすめします。外部の視点を取り入れることで、新たな解決策が見つかるかもしれません。私たちは、皆様の組織の持続的な成長と、地域社会への貢献をサポートいたします。お気軽にご相談ください。
介護経営総合研究所 代表 五十嵐太郎
名古屋大学経済学部を卒業後、株式会社リクルートにて通信事業、ブライダル事業、マーケティングに従事。
その後、民間介護会社、社会福祉法人にて大規模な経営改善を実現。2021年4月介護経営総合研究所を創業。
改善実績:採用コスト2,000万円削減、離職率5割削減、採用単価3万円で200人採用、人材紹介・人材派遣0
人材紹介会社費用の9割減、東京にて施設開設時に160人採用、利益率4倍、薬剤師応募を1時間で獲得、他多数。